懇談会報告

2025年5月31日、総会に引き続き、懇談会が開催されました。今年度は国際交流留学生プラザ3階会議室とZoomを併用しての懇談会となりました。

お茶の水女子大学からは8名の先生方にZoomでご参加いただき、会議室には桜蔭学園校長の斎藤先生がお越しくださいました。

まず桜蔭会の白木百合子会長からの挨拶があり、続いて各先生方よりお話がありました。ここではその内容を簡単に紹介させていただきます。

白木百合子会長

先ほど臨時理事会で会長に選出されました、昭和56年児童学科卒業の白木百合子と申します。副会長は、神戸佳子理事、そしてクロスリー陽子理事が務めさせていただきます。
本日は、ご来賓の皆様のお話をお伺いしますのを楽しみにしておりました。どうぞよろしくお願い申し上げます。

佐々木泰子学長

大学では、4月より新執行部体制がスタートしております。大学の執行部は3人が交代しました。曺基哲副学長、相川京子副学長、そして本日ご欠席の井上登喜子副学長・図書館館長が、新しくメンバーに加わってくださっています。
今年は本学創立150周年の年となり、桜蔭会の皆様には150周年記念募金に多額のご寄付を賜り、深く感謝申し上げております。11月には記念の式典を挙行の予定です。
多くの優秀な女性人材を輩出してきた伝統ある母校ですが、18歳人口の激減が見込まれる2040年を見据え、受験生や保護者の皆様に魅力ある大学であり続けられるよう、一層の努力をしてまいります。 21世紀も四半世紀を超えた今、人類や大学を取り巻く環境は大きく変化していますが、社会の要請に応え、科学技術との共生を志向し、イノベーションや新しい価値創造によって人々が幸せに暮らすことのできる持続可能な社会の実現を目指して頑張ってまいりますので、引き続き温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

加藤美砂子理事・副学長 (総務・理系女性育成・創立150周年事業・同窓会担当)

私からは、創立150周年記念事業についてご紹介します。
150周年記念事業を実施するために、150年史編纂、150周年基金、企画行事総合、広報、学生、国際コミュニケーションの6つの分科会を作り、準備を進めています。
記念事業としては、創立150周年記念プロジェクト事業、ESGキャンパス整備事業、創立150周年記念学習支援基金事業、創立150周年史編纂事業を実施します。
ESGキャンパス整備事業としては、同窓会館のあった場所に複合施設を建設する予定です。大学は、施設の一部を事業者から借用し、1階には産学連携スペースと広報ギャラリー、2階には150周年記念ホール、談話室などを設置します。
11月29日土曜日には、徽音堂にて、お茶の水女子大学創立150周年記念式典を開催いたします。
昨年、新しい学生歌を作るために歌詞の公募をしました。審査の結果、最優秀賞受賞作品『憧れの』という学生歌が決定しました。作曲は本学名誉教授で作曲家の近藤譲先生が担当され、創立150周年の式典での初演を予定しています。
150年史編纂事業では、お茶の水女子大学創立150年史を2026年に刊行するため準備を進めております。
附属学校園を含む在学生、卒業生、教職員がともに創立150周年を喜び、本学のさらなる発展の足掛かりになるような記念事業となるように力を尽くしてまいります。

曺基哲理事・副学長(教育改革・入試改革担当)

桜蔭会の皆様におかれましては、日頃より本学を温かく見守っていただき、また本学と学生を支えていただき感謝申し上げます。
昨年4月に新しく共創工学部という新しい学部の開設がありましたが、それに続き、大学院に共創工学専攻を設置するための準備をしてきました。この4月に設置のための申請を文部科学省に提出しました。これが認められれば、来年4月から新しい専攻に、新しい大学院生を迎えるための準備を進めます。 そのほか、本学の博士後期課程では、JST(科学技術振興機構)の主催するスプリング事業に本学が採択されました。これは博士後期課程に在籍する意欲ある大学院生を経済的に支援し、社会の発展と成長に貢献する人材を輩出するプログラムです。本学では、この取り組みのプログラムを設計し、T-COCOA という名称でこの4月からスタートさせています。本年度は、博士後期課程の1年生から3年生の計23名を選抜し、各自の研究テーマの推進とともに、本事業で設計したキャリア開発プログラムの受講や海外派遣研修などを行う予定です。

石井クンツ昌子理事・副学長 (国際交流・ダイバーシティ推進担当)

国際交流関連の取組では、海外留学支援事業とアジア女性研究者支援事業で桜蔭会の皆様には毎年大変お世話になっています。昨年度は、海外留学支援事業に1名の大学院生を派遣し、本年度も募集が始まっています。
他の国際交流関連では、2023年度に文科省の「大学の世界展開力強化事業」に採択され、6ヶ月のプログラムを行ってまいりました。この中で特に注目されていますのは、本学とご縁のある企業にお願いし、本学の学生と留学生がペアで英語によるインターンシップをさせていただく試みです。このインターンシップの報告会では、大変貴重な経験であったことが多くの学生から報告されていました。
次に、昨年10月にインドのデリーで開催された日印大学等フォーラムに参加してきました。今後は、インドを含むグローバルサウス諸国におけるパートナー校を開拓していきたいと思っています。
また、昨年11月には佐々木学長とともにタイへ出張しました。タイの元留学生の方々とお会いして同窓会を開催し、大変有意義な時間を過ごすことができました。
次に、ダイバーシティの推進です。ジェンダーに関連する3つの研究所「ジェンダー研究所」「グローバルリーダーシップ研究所」「ジェンダード・イノベーション研究所」は、それそれぞれの目標へ向けて研究や科目の提供、シンポジウムやセミナーの開催などを積極的に行っています。 さらに、企業との共同研究も進めています。今年度は産学連携での新たな共同研究を模索している途中です。

坂元章理事・副学長 (評価・学校教育開発支援担当、附属学校部長)

本学では、令和4年度にコンピテンシー育成開発研究所という部署を設立しました。
コンピテンシーとは、社会において成果を上げる資質・能力です。例えば、批判的思考力、協働力、創造性、問題解決力、他者理解力、自己制御力などで、教科や専門を超えた、より一般性のある資質・能力ということになります。
近年、コンピテンシーを育成することが大学や学校に求められるようになっており、本学としても、この研究所を1つの核として取り組みを進めているところです。
具体的な取り組みとしては、学生が自分のコンピテンシーをチェックしてどのコンピテンシーを伸ばすためにはどの授業を履修すれば良いかをガイドする支援システムを作りました。他にも、先生方がコンピテンシーを伸ばす授業ができるように研修を行ったり、優れたコンピテンシー育成の事例を紹介したりするといった取り組みをしています。
先日は、120人の同窓生の皆様にアンケートを実施させていただき、卒業後の人生の中でどのようなコンピテンシーが重要と思われたかなどを伺いました。ごく大まかなところだけ申し上げますと、同窓生の皆様は卒業後の人生の中で、他者理解力、協働力といったものが大変大事であるというふうに捉えていることがうかがえました。この結果は学生も読めるようになっていて、学生の取り組みの貴重な指針となっています。
大学にとって、同窓生の皆様が本当に貴重な財産であるということを改めて感じさせていただいた次第です。

谷明人理事 (新領域開拓担当)

私は学外理事ですので、最近の国内外での大学を取り巻く情勢について発言させていただきます。
先日、トランプ政権が留学生ビザ取得の面接を一時停止したことが世界中で大きなニュースになりました。ハーバード大学は反ユダヤ主義を助長したとして政権と対立しているわけですが、政府は大学の収益源である留学生の授業料を激減させる方針です。ハーバード大学の留学生の授業料は年間850万円で、日本の国立大学の15倍以上です。今回の措置が共和党政権支持者から好意的に捉えられているように、根深い問題として、米国の一流大学は一般の国民からは乖離した特権階級であるという見方があるようです。
翻って、日本ではというと、今、文部科学省の目玉政策として実施されている国際卓越大学は、数百億円規模の資金を特定の大学のみに交付する制度です。科学技術に特化して支援をするという必要はもちろんあるわけですが、あまりにも一極集中すると、アメリカのように世間から乖離した存在になる恐れもゼロではないという風に感じております。
当学はリベラルアーツを中心に、教養人の育成に現在の社会ニーズを加味して、大変バランスの良い方向に向かっているものと自画自賛していますが、これから学生人口の減少をひかえる中、米国の混乱を他山の石として、社会との融合などが、さらに重要性を増していくものと感じています。

相川京子副学長 (研究・産学連携担当) 

本学は、人文科学、人間科学、自然科学の各学問領域に所属して、基幹的な立場から個別にユニークな研究を進める研究者と、特定の共通目標の下に設置された研究所やセンターに所属して、まさしく今を捉えた研究に取り組む研究者が作り出す、豊かな知の資源があります。それらを産業界に広く発信して協働に結びつけることは大学の使命の主たるところの1つですので、お茶の水女子大学の研究成果を目に見える形にする、見落とされないようにすることが本学の存在感を示すために大切と考えています。
以前より本学では研究紹介集を作って、ホームページ上に掲載しておりましたが、ここ数年で新設された学部学科もあり、また新しく着任した教員の割合も多くなってまいりましたので、今年度は10年ぶりに研究紹介集の刷新を進めております。
4月に入りまして、科研費をはじめとして様々な競争的研究費の獲得に加えて、企業とのコンサルティング契約などが活発に始められています。最近は日本航空様との協定も締結され、本学の研究者のアクティビティを大変強く感じております。
ちょうど先週は文科省より今年度の科研費の配分状況が発表されましたが、申請課題のうちの採択された課題の割合、採択率について、本学は全国3位と大変上位であったことが分かりました。科研費採択の研究課題には、学生や院生も参画して進められている課題も多くございます。毎年多くの学生、院生が桜蔭会様より研究奨励を受けて大いにエンカレッジしていただいております。改めてここに感謝申し上げます。

福本浩一副学長 (事務担当)

私は防災関係業務を所掌しておりまして、例年、学生と教職員が一斉に行動する避難訓練を行っています。今回も避難訓練についてお話をさせていただきたいと思います。
今年は、4月21日の月曜日に学生と教職員を対象に避難訓練を行いました。キャンパス内部の避難訓練ですので、大学のグラウンドに参集してもらいました。参加人数は例年、教職員が120名前後、学生は500名から600名ぐらいで、本年は534名の学生に参加していただきました。
併せて、メールを使った安否確認の訓練も実施しました。報告率としましては、教職員は90数%、学生は85~6%の報告率でした。
首都直下地震は今後30年以内に70%の確率で発生すると言われています。いざという時に備えるため、避難訓練、メールを使った安否確認訓練を実施していることを、ご報告させていただいた次第です。

齊藤由紀子先生 (桜蔭学園理事長・校長)

私は昭和54年に国文を卒業し、56年に修士課程を終了して、母校の桜蔭中学校高等学校に就職いたしました。
先日は、桜蔭会会報のインタビュー記事に取り上げていただき、ありがとうございました。初代校長、後閑キクノをはじめとして、歴代桜蔭会員の校長の末席を汚すものといたしまして、改めて責任を感じております。
本校は、大正13年に4年制の女学校として創立され、本年、創立101周年を迎えました。桜蔭会の方々は、設立計画の時から、いずれ7年制にすることについて話し合った記録がございますが、校地や費用を確保することができず、設置することができなかったようです。この7年制構想は、男子では私立に7年制高等学校が認められるようになったことが根底にあったと思われます。男子とともに大学で本格的に勉強する基礎力をつけさせたいという思いがあったのでしょう。
幸いなことに、本校の生徒たちは真摯に勉学に取り組んでいます。桜蔭会の先達の思いに応える校風が作られていると自負しております。
また、本校の西側にある宝生能楽堂を含む宝生ハイツが、現在の8階建てから20階建ての高層マンションに建て替える計画があることについては、ご心配をおかけしております。この建て替えは、教育環境の悪化ばかりではなく、擁壁の安全性に関わる大問題です。現在も宝生会・東京都との裁判が継続中ですが、地元の町会や隣接する金刀比羅宮と協力して交渉を続けてまいる所存です。今後ともご支援をお願い申し上げます。


先生方のお話のあと、会場とZoomの参加者より、感想や質問が寄せられました。質問には先生方からの丁寧な回答がありました。

Q お茶の水女子大学としては、共生社会、インクルージョンにどのように取り組んでいますか

A 石井クンツ昌子理事・副会長 これまで本学では、ダイバーシティということでは、男性・女性の比較とかジェンダーに関連することが多かったと思われます。けれども、男女差だけではない様々なダイバーシティがこの世の中には存在するわけですから、これからの課題の1つとして、本学もそのダイバーシティ推進に力を入れていきたいと思います。ぜひ、桜蔭会の皆様のご意見やご提案もいただきながら積極的に進めてまいりたいと思います。

曺基哲理事・副学長 最近は多様な個性を持った学生さんが大学に入学してこられます。それらの方々に対して勉学を進めていく上での環境を用意するための委員会を作っています。それぞれ様々な個性を持つ学生さんたちが、そこを補いつつ授業に参加したり、学生生活を送れるようにサポートするということに取り組んでおります。

Q お話の中で、産学連携に興味を持ったのですが、実際どのようなことをされているのでしょうか。

A 石井クンツ昌子理事・副会長 これまでの企業様との連携では、富士通様と、採用人事における男女差・ジェンダーバイアスをAIで解消するといった内容の共同研究をしました。また、三井不動産様とは、女性の企業家に関する研究をさせていただきました。この2つに関しては、本学のホームページに詳細がございますので、ご覧いただければと思います。

佐々木泰子学長 日本航空の社長になられた鳥取社長はCAのご出身ということで話題になりましたが、社長ご自身が本学にいらして、協定の締結式を行ったばかりです。その時にお話ししたのは、CAの部署では女性が多い企業ですが、パイロットの方だとか、男性が多くいらっしゃるところで、女性がどうリーダーシップを発揮したらいいのかといったことでした。

Q お茶の水女子大学ではリベラルアーツを大事にしているというお話がありましたが、多様性や協調性が排除されるような流れのある今の時代に、教育の成果をどのようなところで出そうとしているのでしょうか。

A 曺基哲理事・副学長 本学では、21世紀型文理融合リベラルアーツという科目群を履修科目の一部として取るようにカリキュラムを組んでいます。そこでは様々な社会問題の解決や、自然科学と社会、人文社会科学との融合等々を目指しています。ご指摘いただいたように、世界的に多様性とか協調性という考え方が脅かされているという危惧が、この1~2年の間に急速に高まってきたような気がします。率直にお答えしますと、それらの危機にどのように対処しているのかはすぐには申し上げられず、しばらく時間をかけて育んでいくものだと思っております。ただ、我々を取り巻く社会的な問題につきましては、学内の様々な研究所の講演会等でも取り上げていますので、授業だけでなく様々なチャンネルで、そういった問題に関して学生たちが敏感になってもらえればと考えています。

Q 高校の現場にいます。生徒は大学選びをするときに学生の満足度や大学ランキングなどを見ます。大学では、今の学生の満足度や、お茶大に来てよかったなという気持ちを高めるために、何か工夫をしていますか。

A 曺基哲理事・副学長 本学では、一定期間ごとに、学生の満足度も含め、アンケート調査を行っています。授業に対する満足度、大学の設備や環境に対する満足度等々、意見を集約し、それに対する対応をその都度考えています。
また、アンケートだけではなく、年に2度、学生懇談会を開き、学長・副学長が、学生さんたちの声を聞き、それに対する対応を考えるといった機会を設けるようにしています。

佐々木泰子学長 先生方が高校を回ったり、私もメディアの取材などを積極的に受けるようにしていますけれども、どういう情報が伝わりやすいのか、何かアドバイスがあったらいただきたいと思います。いかがでしょうか。

(桜蔭会員) 高校生は本当に接しているメディアが限られるので、やはりランキングとかそういう数字に目が行きます。それと、入試制度がすごく個性的なのですけど、新フンボルト入試とか、まだ生徒は知らないなと思います。
推薦入試もあるし、フンボルト入試も、一般入試もあるので、もっと受けてほしいなと私は思うのですが、生徒たちはあまり知らないようです。

佐々木泰子学長 ありがとうございます。新フンボルト入試は評価されているのですが、生徒の皆さんには届いていないと知りました。引き続き分かり易い情報提供を心がけていきたいと思います。