「お茶の水女子大学創立120周年記念事業 国際交流振興基金・桜蔭会国際交流奨励賞」を受賞され、ワシントン大学に留学している中島麻里さんより、報告書が届きました。
留学報告書
Postdoctoral Scholar
Division of Cardiology, Department of Medicine University of Washington
中島 麻里
(平成29年生物学科卒、令和4年博士後期課程修了)
はじめに
「お茶の水女子大学創立120周年記念事業 国際交流振興基金・桜蔭会国際交流奨励賞」を2年連続で賜りましたこと、心より感謝申し上げます。私は現在、アメリカ・ワシントン州シアトルにあるワシントン大学(University of Washington)にて、ポスドク研究員として研究活動に従事しております。2022年6月に渡米し、気がつけば3年が経とうとしています。
研究のフィールドを越えて ― 脳から心臓へ
学生時代は、お茶の水女子大学理学部生物学科にて、宮本泰則教授のご指導のもと、分子生物学を基盤とした神経化学の研究に取り組みました。特に、外傷性脳損傷モデルを用い、室伏きみ子元学長が発見された環状フォスファチジン酸(cPA)を基に合成された「2ccPA」の作用に着目し、神経細胞やグリア細胞の応答を通じて「損傷と修復」の仕組みを探りました。脳の研究を進める中で「心と脳のつながり」に関心を持つようになり、次第に心臓の分子機構にも興味が広がりました。現在は、ワシントン大学医学部・循環器内科(UW Medicine Division of Cardiology)に所属し、「fortilin」というタンパク質が心不全において果たす役割を、マウス・細胞・ヒト検体を用いて研究しています。異分野への転換は新たな挑戦でしたが、分子生物学の基礎が新たな分野でも確かな土台となっています。
University of Washington という研究環境
1861年創立のワシントン大学は、アメリカ西海岸で最も歴史のある州立大学の1つであり、これまでに8名のノーベル賞受賞者を輩出した全米有数の研究機関です。四季折々の自然に包まれたキャンパスには、歴史ある建物と現代的な研究施設が調和し、春には満開の桜が学生や市民を迎えます。私の所属する研究室は、シアトル中心部に当たるSouth Lake Union地区にあります。周囲にはAmazon本社をはじめ、Fred Hutchinson Cancer Center、Gates Foundation、Allen Instituteなどの研究機関やテクノロジー企業が集まり、分野横断的な交流が自然に生まれる活気ある地域です。
異分野をつなぐ「シアトル日本人研究者の会」
研究生活を支えてくれたのが「シアトル日本人研究者の会」です。COVID-19の影響で希薄になったつながりを取り戻すべく2020年に設立され、2025年5月現在、240名の多様な分野・世代の日本人研究者が所属しています。2ヶ月に1度の研究発表会や、Facebookを通じた情報共有が活発に行われ、研究と生活の両面で大きな支えとなっています。私も運営に関わり、勉強会や交流会を通して、分野を越えた対話から多くの学びを得ることができています。
おわりに
アメリカでの研究生活は、最先端の環境に身を置く貴重な経験である一方で、制度や政治の変化による不安定さにも直面します。ビザの取得や更新、採用の停滞など、慎重な準備と柔軟な対応が求められる場面も少なくありません。それでも、異なる文化や多様な価値観の中で研究に向き合う日々は、視野を広げ、自らの専門性を見つめ直す機会にあふれています。
こうした貴重な機会を得られたのは、お茶の水女子大学での学びがあってこそです。そして、桜蔭会の皆さまの温かなご支援が、異国の地での研究生活を力強く支えてくださいました。これからも研究者として、そして一人の女性として、自分らしい歩みを大切にしながら、社会とつながる研究を続けてまいります。海外を志す後輩たちの背中を、そっと押せる存在でありたいと願っています。

